喪中のおせち・年越しそば|祝い肴の扱いと代わりの用意

正月の過ごし方

年の暮れに身内を亡くすと、おせちの支度で手が止まります。例年どおり重箱を用意してよいのか、それとも取りやめるのか。調べると「喪中はおせちを控える」「この食材は避ける」と書かれたページが並んでいて、そのとおりにしなければならない気持ちになるでしょう。

ところが、その説明の出所をたどると、おせちの通販サイトや百貨店の特集ページ、葬儀社のコラムに行き着きます。神社や寺院がおせちの可否を示した公式の資料は見当たりません。控えるべきだと書いた公式の資料が無い代わりに、食べてよいと明言した公式の資料も無い、というのがおせちの実際のところ。

ここでは、控えるとされる説明がどこまでの強さなのかを確かめたうえで、避けるとされる食材の正体、用意の仕方の選び方、年越しそばや雑煮の扱い、家族で意見が割れたときの決め方を見ていきます。マナーの正解を探している方も、まず根拠の在りかから確かめてみてください。

喪中のおせちの判断

おせちを控えるかどうかは、マナー違反にあたるかどうかでは決まりません。ここでは、控えるとされる説明の出所と、忌中と喪中で気の遣いどころが変わること、作法を決めた主体がいないことを説明します。

おせちを控える説明の出所は販売側にとどまる

おせちを喪中に控えるという説明は、重箱に詰める祝い肴が縁起物にあたるため、祝いの席の料理として扱われる、という理屈で語られます。ただしこの説明を載せているのは、おせちの通販サイトや百貨店の特集ページ、葬儀社のコラム。いずれもおせちを売る側か、喪中の相談を受ける側のページで、神社本庁や寺院が公式に示した見解ではありません。

出所が販売側だからといって、書かれている内容が間違っているとは限らないでしょう。広く共有されてきた慣習を言葉にしたものではあります。とはいえ、守らなければマナー違反になると言い切れる根拠は、探しても見当たらないところ。おせちの記事を読んで不安になったら、そのページが何を根拠にしているかを先に確かめてみてください。

おせちを控えるという説明の出所は、そのおせちを売る側のページです。

忌中と喪中では気の遣いどころが変わる

おせちの扱いを考えるとき、自分が忌中にあたるのかどうかで話が変わります。神社本庁は、故人の祭りに専念する期間を忌、故人への哀悼の気持ちを表す期間を服と呼び分けていて、特に慣例がない場合は五十日祭までが忌、一年祭までが服。世間で喪中と呼ばれるのは、この服の期間のことです。

忌の間は葬儀を終えた直後にあたり、そもそも重箱を用意する余裕がない家がほとんど。この時期に控えるとされているのは神社への参拝や神棚のおまつりで、これは神域に関わる話であって、台所の献立を縛るものではありません。忌が明けた後の喪中の期間についても、おせちを禁じた資料は見当たらないところ。判断の軸になる忌と喪の違いは、喪中の正月の過ごし方の記事で確かめてください。

おせちの作法を決めた主体はいない

おせちの作法を決めた主体は、どこにも存在しません。忌中と喪中の期間を定めた法令は現在は無く、神社が示す日数も法律ではなく慣習です。北海道神社庁は、明治7年まで国が定めていた服忌の規定があり、その後は民間習慣として受け継がれてきたと説明しています。国が手を引いた後の作法を、誰かがまとめ直したわけでもありません。

正解の一覧が見つからないのは、探し方が足りないからではなく、作った人がいないからでしょう。おせちをどうするかは、家族が納得できる線をどこに引くかという話。近所や親族から見えるものは慣習に合わせ、家の中で完結することは家族の気持ちで決める、という分け方をする家もあります。マナーの答え合わせをやめて、家族で話す材料としてこの先を読み進めてください。

避けるとされる食材の扱い

喪中のおせちで避けるべき食材として、決まった品名が並ぶページがあります。ここでは、その一覧に何が挙がっているのかと、どこまで裏の取れた話なのかを確かめます。

名前が挙がるのは鯛や海老などの縁起物

避けるとされる食材として名前が挙がるのは、鯛や海老、紅白なます、紅白かまぼこ。いずれも祝いの席を思わせる品として扱われてきたもので、そこを外すよう案内されます。品数の多い重箱ほど、この手の品が並ぶところ。

一覧を載せているのは、おせちの通販サイトや百貨店の特集ページです。喪中向けの品をそろえた店が、注文の前に読む方へ向けて書いたもの。名前が挙がっている品を全部外さなければならない、と書いているわけでもなく、目安として並べているページがほとんどでしょう。一覧を見て手が止まったら、自分の家で気になる品だけを拾い出してみてください。

食材の一覧をマナーとして断定した資料はない

避けるべき食材の一覧は、守らなければ失礼になる決まりではありません。出所をたどるとおせちを扱う通販や百貨店のページに行き着き、宗教機関の裏づけが見当たらないためです。マナー違反だと書いたページもありますが、何を根拠にそう言えるのかまで示したものはないところ。

難しいのは、逆向きの資料も無い点でしょう。どちらの側にも公の裏づけが無い以上、一覧を守っても外しても、作法を誤ったことにはなりません。家族で話すときのたたき台として眺めるくらいでかまいません。誰かに叱られる話ではないと分かったところで、家の考え方に合わせて決めてください。

控えるべきだと書いた公式の資料が無い代わりに、食べてよいと明言した公式の資料もありません。

おせちの用意の仕方

おせちを控えると決めた家でも、全部を取りやめているわけではありません。ここでは、実際に選ばれている4つの形を挙げ、それぞれどんな家に向くのかを説明します。

祝い肴を外して普段のごちそうにする

祝い肴だけを外し、残りを普段のごちそうとして用意する家があります。縁起物として名前が挙がる品をよけ、煮物や焼き物を中心に組み直せば、正月らしい食卓の形は保てるためです。中身を減らすだけなので、支度の手間もかえって軽くなります。

この形が向くのは、家族で正月の食卓を囲む習慣を残したい家でしょう。子どもがいる家庭なら、正月だけの料理が何も出ないと物足りなさが残ります。どこまで外すかは家の判断で、名前が挙がった品を全部抜かなければならないという決まりもないところ。まず外したい品を家族で挙げてから、残りの献立を決めてみてください。

重箱を使わず皿に盛る

料理は用意して、重箱だけをやめるという選び方もあります。重箱に詰めると祝い膳の形になるため、そこが気になるなら普段の皿に盛り付ければよい、という考え方。中身を変えずに、見た目だけを普段の食事に近づける方法です。祝いの形に見えるのは器の方だ、という見方に立った選び方になります。

この方法が向くのは、親族が集まる家。重箱が出ていると祝いの席に見えるのを気にする方もいて、盛り付けを変えるだけで印象が変わります。重箱を用意する費用や手間もかからないので、支度に時間を割けない年にも向きます。皿に盛れば量も加減できるので、少人数の家にも合うでしょう。重箱を出すかどうかで家族の意見が分かれたら、この折衷案を先に置いてみてください。

おせちをやめて普段の食事にする

おせちそのものを取りやめ、正月も普段の食事で通す家もあります。喪中の最初の正月は、葬儀や手続きが続いた直後にあたることが多く、支度の手間をかけられないという事情もあるところ。祝いの形を一切出したくない気持ちがあるなら、この選び方がいちばん迷いません。

取りやめても、それを失礼と受け取る相手はいないはずです。おせちは家の中の食事で、正月飾りや年賀状のように外から見えるものではないからです。外に見えるものは慣習に合わせるとしても、食卓まで外向きに調える必要はないでしょう。用意する気力が湧かない年は、無理に例年どおりにしなくてかまいません。

例年どおり用意する家もある

例年どおりおせちを用意する家もあります。控えるべきだと定めた公的な資料も宗教機関の見解も無いので、用意したからといって作法を外したことにはなりません。故人が毎年おせちを楽しみにしていたのなら、その席を続けることが偲ぶ形になる、という考え方もあるところ。

気を付けたいのは、家の外から見える形にしないことでしょう。玄関の飾りや年賀状は、外に対して1年間は喪家であるという扱いで控えるとされる側にあります。おせちは家の中で完結するので、その線を越えません。親族を招く予定があるなら、当日に驚かせないよう先に一言伝えておくと落ち着いて過ごせます。

年越しそばと雑煮、お屠蘇の扱い

正月の食べ物は、おせち以外にも判断に迷うものが並びます。ここでは、年越しそばと雑煮、お屠蘇の3つについて、どこまで裏の取れた話なのかを見ていきます。

年越しそばは差し支えないとされる

年越しそばは、喪中でも食べて差し支えないとされています。新年を祝う意味を持たない食べ物だから、という説明が一般的。大晦日の夜に家族でそばをすする形は、正月の祝い膳とは別の場面として扱われます。大晦日に食べるものなので、そもそも新年の行事に入らないという見方もあります。

ただしこの説明も、コラム記事に載っているだけで、宗教機関が示したものではありません。控えるよう案内した神社や寺院の資料は見当たらず、食べてよいと明言した資料も同じく無いところ。裏づけの有無で言えば、おせちとまったく同じ位置にあります。どちらの資料も無い以上、家の判断に任された話だと考えてよいところ。年をまたぐ前の食事なので、迷うなら例年どおりで差し支えないでしょう。

雑煮は出す場面によって見え方が変わる

雑煮も、料理そのものに祝意がないとして差し支えないとする案内をよく見かけます。餅を入れた汁物で、縁起物として扱われる祝い肴とは違うと説明されるところ。この説明の出所も、神社や寺院ではなくコラム記事です。地域によって餅の形も汁の仕立ても違い、全国で共通した作法があるわけでもありません。

気になるとすれば、雑煮を出す場面の方でしょう。家族で新年の挨拶を交わしながら食べるなら、祝いの席の形に近づきます。普段の朝食として出せば、同じ料理でも印象は変わるもの。餅を食べたいだけなら、正月に限らず用意できる料理でもあります。料理そのものを取りやめるより、どんな場面で出すかを決めてみてください。

お屠蘇は家族の考え方で決めるほかない

お屠蘇をどうするかは、家族の考え方で決めるほかありません。喪中の屠蘇について、神社や寺院が扱いを示した資料は確認できませんでした。おせちのように販売側の説明が並ぶわけでもなく、判断の材料そのものが少ない話です。

決め手が無い以上、気になるかどうかで決めてかまいません。年始に酒を酌み交わす場が祝いの席に見えるのが気になるなら、その年は出さないという選び方があります。逆に、故人を偲びながら家族で一杯ずつ、という形にする家もあるでしょう。屠蘇の器を出すかどうかは、当日に迷わないよう年内に決めておいてください。

意見が割れたときの決め方

おせちの支度は、家族や親族で意見が分かれやすいところです。ここでは、話が平行線になったときに何を基準に線を引けばよいのかを説明します。

外から見えるかどうかで線を引く

線を引くなら、家の外から見えるかどうかを基準にすると決めやすくなります。北海道神社庁は、家が1年の間喪中であっても五十日が過ぎれば新年の神札を受けられるとしながら、外に対しては1年間は喪家であるため、門口の正月飾りは年賀状と同じく遠慮するとしています。同じ正月の支度でも、外向きのものだけ扱いを変えているところ。

おせちは家の中の食事で、玄関の飾りのように近所から見えるものではありません。外向きのものは慣習に合わせ、家の中のことは家族の気持ちで決める、という分け方をすれば、迷う対象がぐっと減るでしょう。飾りをどこまで控えるかで話が止まっているなら、喪中の正月飾り・鏡餅の記事を家族で読んでみてください。

年長の親族の意向を先に確かめる

意見が割れたら、家で年長の親族に先に尋ねておくと話が早くなります。喪中の作法は地域や家によって扱いが変わり、全国一律の答えがありません。神社本庁も、特に慣例がない場合の目安として日数を示したうえで、各地域の慣例に従うのが適切だとしています。

注意

喪中の食事の作法は、地域や家によって扱いが違います。ここに書いたことも全国一律の決まりではないので、迷ったら家の年長者や地元の神社に確かめてください。:::
先に尋ねておけば、当日になって「うちはこうしない」と言われて気まずくなる事態を避けられます。聞いた結果が自分の考えと違っても、家の中の食事なら折り合いをつける幅は残るでしょう。親族が集まる正月を控えているなら、支度に入る前に一度電話を入れておいてください。
### 折衷案を先に出して選んでもらう
意見がぶつかったときは、どちらかを通すより折衷案を先に置くほうがまとまります。重箱をやめて皿に盛る、祝い肴だけ外す、品数を減らすといった中間の形があるためです。全部やるか全部やめるかの二択にすると、どちらかが不満を抱えたまま正月を迎えることになります。
話し合いの前に、家族それぞれが何を気にしているのかを聞き出しておくと選びやすくなるでしょう。見た目が気になるのか、故人への気持ちの問題なのかで、選ぶ形が変わるためです。正月の支度全体から決めたい方は、[喪中の正月の過ごし方](/mochu-shogatsu-sugoshikata/)の記事を先に読んでみてください。
## まとめ
喪中のおせちを控えるかどうかは、マナーとして決まっているわけではありません。控えるという説明の出所は、おせちの通販サイトや百貨店、葬儀社のコラムで、神社や寺院が可否を示した公式の資料は見当たらないところ。避けるべき食材として鯛や海老が挙げられるのも同じ販売側のページで、守らなければ失礼になると断定できる根拠はありません。控えるべきだと書いた公式の資料が無い代わりに、食べてよいと明言した公式の資料も無いのが実際で、年越しそばや雑煮の扱いもまったく同じ位置にあります。決めた主体がいない以上、頼りになるのは家族と地域の判断でしょう。祝い肴だけ外す、重箱をやめて皿に盛る、普段の食事にする、例年どおり用意する。この4つから家に合う形を選び、外から見えるものだけ慣習に合わせて決めてください。
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