身内を亡くすと、喪中にやってはいけないことを一通り知っておきたくなる方は多いでしょう。検索すると、初詣も結婚式も旅行もお酒もだめだという長い一覧が並びます。
ところが一次の資料に当たると、その一覧の大半は出どころをたどれません。神社本庁のように公の見解として控えるべきものを示しているのは、神社への参拝と神棚のおまつりだけ。しかもその期間は最長50日の忌であって、喪中の1年間ではありません。
この記事は、禁止事項を並べるためのものではありません。何が確かめられる話で、何が慣習にすぎないのかを場面ごとに分けていきます。読み終えたときに、自分の家でどこまで控えるかを自分で決められる形になるよう並べました。
喪中の禁止事項の全体像
喪中にやってはいけないこととして語られる項目は、根拠の強さがまったくそろっていません。ここでは、判断の軸になる考え方と、確かめられる範囲、根拠が見当たらない範囲を分けて説明します。
判断の軸は喪中かどうかではなく忌が明けたかどうか
喪中に何を控えるかを決める軸は、忌が明けたかどうかです。神社本庁は、故人の祭りに専念する期間を忌、故人への哀悼の気持ちを表す期間を服と呼び分けています。特に慣例がない場合、五十日祭までが忌、一年祭までが服。世間で喪中と呼ばれているのは、後者の服の期間のことです。
このうち控えるとされているのは、忌の間の神社参拝と神棚のおまつりだけ。50日を過ぎれば原則として神社の参拝や家庭でのおまつりを再開しても差し支えないと考えられる、という見解が示されています。喪中という長い括りで何を控えるかを考えると、答えが出ないまま迷い続けることになるでしょう。まず命日から50日を数えて、自分が忌中にいるのかどうかを確かめてください。
一次の資料で確かめられるのは神社に関わることだけ
喪中の禁止事項として挙がる項目を、根拠の出どころで並べ替えると景色が変わります。神社本庁や神社庁が公式に述べているのは、神社と神棚とお神札の扱いに限られていました。正月飾りと年賀状については、外向きの表示として1年控えるという説明が北海道神社庁にあります。それ以外の項目は、葬儀社や通販サイトのコラムしか出どころが見当たりません。
| よく挙がる項目 | 控えるとされる期間 | 根拠の出どころ |
|---|---|---|
| 神社への参拝 | 忌の間(最長50日) | 神社本庁 |
| 神棚のおまつり | 忌の間 | 神社本庁・北海道神社庁 |
| お神札を受ける | 忌の間 | 神社本庁・北海道神社庁 |
| 門口の正月飾り | 1年 | 北海道神社庁 |
| 年賀状 | 1年 | 北海道神社庁 |
| 結婚式への出席・行楽の旅行 | 忌の間 | 福島県神社庁ほか |
| おせち・祝い肴 | 記載なし | 通販・百貨店・葬儀社のコラム |
| 新年の祝いの言葉 | 記載なし | コラム |
| お酒・遊び・引っ越し | 記載なし | 確かめられる出どころなし |
表の右の欄は、その項目に触れている資料の性格を示したものです。コラムしか出どころがない項目は、守らなくても咎められる決まりではありません。:::
上の3行と下の3行では、話の重みがまるで違います。禁止事項を数で並べた記事は、この違いを消してしまうところ。自分が今どの行の話で迷っているのかを、先に確かめてみてください。
### 決まりだと書かれている作法の大半は慣習
喪中の作法をマナー違反という言葉で書いた記事をよく見かけます。ところが、忌中や喪中に何をしてはいけないかを定めた法令は現在存在しません。北海道神社庁も、明治7年まで国が定めていた服忌の規定があり、その後は民間習慣として受け継がれてきたと説明しました。
神社が公式ページに載せている日数も、法律ではなく慣例として案内されたものです。神社本庁自身、特に慣例がない場合の目安として示しており、各地域の慣例に従うのが適切だと添えています。決まりだから守るという読み方をやめると、判断の道すじが見えてきます。マナー違反と書かれた記事に出会ったら、その記事が何を根拠にしているのかを確かめる癖をつけましょう。
## 忌の間に控えるとされること
喪中の禁止事項のうち、公の見解として示されているのはこの節の3つだけです。ここでは、神社への参拝と神棚、お神札の扱いを見ていきます。
### 神社への参拝は忌が明けるまで控える
忌の間は、神社への参拝を控えるとされています。神社本庁は、忌を故人の祭りに専念する期間として、その間は神社参拝と神棚のおまつりを控えるとしました。忌が明けた後については、50日を過ぎれば原則として再開しても差し支えないと考えられる、という控えめな言い方。参拝を勧めているわけでも、規則として禁じているわけでもありません。
やむを得ず忌の間に参拝しなければならないときは、お祓いを受けてから参拝するのがよいとされています。このお祓いは参拝の前に受けるもので、参拝してしまった後に受ければ帳消しになるという話ではないところ。初詣に行けるかどうかの具体的な判断は、[喪中の初詣](/mochu-hatsumode/)の記事で詳しく説明しています。年末年始に不幸があった方は、まず自分の忌明けの日付を確かめてから参拝の予定を決めてください。
### 神棚は白半紙を貼って封じる
忌の間は、家の神棚のおまつりも一時的に取りやめます。神棚の面前に白半紙を貼るか、屏風を立てて隠す方法が案内されていて、この扱いは神棚封じと呼ばれるもの。神社本庁と北海道神社庁のほか、太平山三吉神社や丸亀春日神社の説明でも共通しています。
貼った白半紙は、忌が明けたら外してかまいません。喪中の1年間ずっと封じたままにする必要はなく、外した後は日々のおまつりを元どおりに戻せます。初詣に行けるかどうかばかりを気にして、家の神棚をそのままにしている方もいるでしょう。神社への参拝と神棚のおまつりは同じ忌の話として案内されているので、封じ忘れがないか確かめてみてください。
### お神札とお守りは忌明け後に受ける
新しいお神札は、忌が明けてから受けます。神社本庁は、年末年始が忌と重なる場合、忌明けの後にお神札を受けるよう案内していました。古いお守りの返納や新調についても、忌が明けてからと案内する神社があります。
ここに、忌と服を分けて考える例がはっきり出ています。北海道神社庁の説明では、家が1年の間喪中であっても、五十日が過ぎれば神葬と仏葬にかかわらず新年の神札を受けられるとのこと。ところが門口の正月飾りは、外に対して1年間は喪家であるため、年賀状と同じく遠慮するとしています。同じ正月の支度でありながら、片方は50日で再開し、片方は1年控える形。12月に不幸があった家なら、忌が明ける1月末以降にお神札を受けに行く計算になります。
## 外に向けて1年控えるとされること
忌が明けても控えるとされているものは、外から見えるものに限られています。ここでは、正月飾りと年賀状の扱いを見ていきましょう。
### 門口の正月飾りは1年控えるとされる
門松やしめ飾りといった門口の正月飾りは、喪中の1年間は控えるとされています。北海道神社庁は、外に対しては1年間は喪家であるため、年賀状と同じく門口の正月飾りは遠慮するとしました。玄関先に出す飾りは近所から見えるものにあたるという扱いです。
理由づけのほうは、飾りを控える慣習ほど確かではありません。門松は年神様の依り代だから飾らない、という説明が広く流布しているものの、この理屈を掲げた神社の公式ページや国の資料は見当たらないところ。飾りの種類ごとの扱いや、家の中に置く鏡餅をどうするかを含めた正月の支度は、[喪中の正月の過ごし方](/mochu-shogatsu-sugoshikata/)の記事で確かめてください。
### 年賀状は控えて喪中はがきで年賀欠礼を伝える
年賀状も、門口の正月飾りと同じく1年控えるとされる側です。北海道神社庁が、外に対して1年間は喪家であるという説明の中で、年賀状と正月飾りを並べて挙げています。外から見える範囲では喪中の家として振る舞う、という考え方がここに表れているところ。
年賀状を控えることを相手に伝えるのが、喪中はがきの役割です。日本郵便は、相手が年賀状印刷の準備を始める前に届けるのが基本的なマナーだとして、11月から12月上旬に出すのが一般的だとしています。誰に出すかの範囲や、喪中をいつまでとするかは、[喪中はいつまで・どこまで](/mochu-itsumade/)の記事にまとめました。11月に入ったら、出す相手を紙に書き出すところから始めてみてください。
## 根拠が確かめられない禁止事項
喪中の禁止リストに並ぶ項目の多くは、この節に入ります。ここでは、よく挙がる4つの項目について、どこまで確かめられるのかを正直に見ていきます。
### 「喪中の1年間は神社に行けない」は忌と服の取り違え
喪中の1年間はずっと神社に行けない。この説明が、禁止リストの筆頭に置かれていることがよくあります。ところがこれは、忌と服を取り違えた誤解にすぎません。神社本庁が参拝を控えるとしているのは五十日祭までの忌の期間で、一年祭までの服の期間ではないためです。
北海道神社庁も、忌中を死のけがれのある期間で最長50日、喪中を忌明け後に日常へ戻るための心のけじめだと分けて説明しています。公式ページで案内している神社は、いずれも忌が明けた後の参拝を差し支えないとする側。格式の高い神社なら喪中の1年間ずっと控えるよう案内される、といった話も流れていますが、そう掲示している神社の公式ページは見当たりません。
喪中を丸ごと1年間、神社に近づけない期間だと考える必要はありません。
### おせちの避けるべき食材は販売側の説明にとどまる
喪中のおせちで鯛や海老を避ける、という一覧をよく見かけます。祝い肴が縁起物にあたるためだと説明されるところ。ただし、この一覧の出どころをたどると、行き着くのはおせちの通販サイトや百貨店、葬儀社のコラムばかりです。
宗教機関がこの食材を避けるよう示した資料は見当たりません。マナー違反だと断定できる根拠がない以上、家の考え方に合わせて決めてかまわないでしょう。祝い肴だけ外して普段のごちそうとして用意する家もあれば、重箱を使わず皿に盛る家もあります。おせちや年越しそばを含めた正月の食事の決め方は、[喪中の正月の過ごし方](/mochu-shogatsu-sugoshikata/)の記事を参考にしてください。
### 結婚式への出席と行楽の旅行は忌の間だけ控える
結婚式に出てよいのかどうかは、喪中の相談でもっとも多く挙がる場面です。ここは神社庁の説明が残っていて、福島県神社庁は忌の期間中について、結婚式や祝賀会、式典への出席と行楽の旅行を控えると書いています。祝い事を予定していたなら忌明け以降に延期する、とも案内されているところ。大野湊神社や太平山三吉神社の説明でも、忌中は結婚式やお祝い事への出席を控えるとされていて、方向はそろっています。
区切りはここでも忌明けです。喪中の1年間ずっと出席できないという話ではなく、忌が明けていれば差し支えないとする説明が神社側にそろっています。控えるとされているのは忌の間で、忌が明けた後の出席を止める説明は見当たりません。 ただし相手のある行事なので、日取りが忌中と重なるなら、招く側に事情を伝えて相談してみてください。なお自分が式を挙げる側の話は別で、これを扱った神社や寺院の資料は見当たらないため、挙式予定の神社に直接尋ねるのが確実です。
### お酒や遊びを禁じた資料は見当たらない
お酒、遊びに行くこと、引っ越し、新車の購入。喪中にやってはいけないこととして、こうした項目が並んだ記事をよく見かけます。ところが、これらを控えるよう述べた神社や寺院の公式ページは確かめられませんでした。葬儀社のコラムにも、根拠を示した記述は見当たらないところ。
出どころがたどれない以上、守らなくても咎められる決まりではありません。とはいえ、控えたい気持ちがあるならそれに従って差し支えないでしょう。喪は故人への哀悼の気持ちを表す期間だと神社本庁が説明している以上、何をどこまで控えるかは気持ちの側から決めてよいものです。禁止事項として押しつけられて我慢するのか、自分で決めて控えるのかは、同じ行動でも意味が違います。同じく根拠のたどれない領域として[喪中のお歳暮・お中元](/mochu-oseibo/)がありますが、こちらは贈る相手のある話なので、判断の材料を別の記事にまとめました。
## 喪中の作法の決め方
決まりが無いと分かったところで、では何を手がかりにするのかという問いが残ります。ここでは、迷ったときに何から決めればよいかを3つの手順で説明します。
### 命日から50日を数えて忌明けを確かめる
最初に決めるのは、自分の家が忌中にあたるかどうかです。命日を1日目として50日を数え、その日付をカレンダーに書き入れてください。この日付を過ぎていれば、神社への参拝も神棚のおまつりもお神札も、差し支えないとされる側に入ります。
忌の日数は、亡くなった方との続柄によっても変わります。父母や配偶者を50日、祖父母を30日とする点は多くの神社で一致していますが、子や兄弟姉妹の日数は神社によって割れているのが実際のところ。続柄ごとの日数の幅は[喪中の初詣](/mochu-hatsumode/)の記事に、喪中そのものの期間と範囲は[喪中はいつまで・どこまで](/mochu-itsumade/)の記事にまとめています。まず1つ目の日付を確定させましょう。
### 外から見えることだけ親族と足並みをそろえる
次に決めるのは、外から見えることをどうするかです。門口の飾りと年賀状は、外に対して喪家として振る舞う範囲にあたります。近所や親族から見えるものなので、家の中だけで済むこととは分けて考えるとよいでしょう。
ここで効いてくるのが、親族との足並みです。同じ祖父母を亡くした親族どうしで、片方が喪中はがきを出し、片方が年賀状を出すという食い違いが起こります。喪中はがきを出す範囲と正月の集まりをどうするかは、年内のうちに話しておくと後で気まずくなりません。家の中の食事や過ごし方まで親族に合わせる必要はないので、線を引く場所を決めてから相談してみてください。
### 判断に迷ったら地元の神社と菩提寺に尋ねる
最後に残るのが、どちらとも決めかねる場面です。神社本庁も、特に慣例がない場合の目安として日数を示したうえで、各地域の慣例に従うのが適切だとしています。全国一律の答えは、そもそも存在しない部分が残るところ。
参拝先の神社には、命日を伝えて忌明けの日を尋ねれば、その神社の考え方に沿った答えをもらえます。宗派による違いが気になるなら、菩提寺に直接尋ねるのが確実でしょう。浄土真宗の寺院では喪中や忌中の考え方がないと説明されることが多いものの、喪中を名指しで否定した宗派の公式文書は見当たりません。年末年始の社務所は混み合うので、12月の早いうちに連絡しておくと落ち着いて話せます。
## まとめ
喪中にやってはいけないこととして一次の資料で確かめられるのは、忌の間に神社への参拝と神棚のおまつりを控えること、そして外に向けて門口の正月飾りと年賀状を1年控えることだけです。神社本庁が控えるとしているのは最長50日の忌であって、喪中の1年間ではありません。北海道神社庁は、五十日が過ぎれば新年のお神札を受けられるとしながら、門口の正月飾りは1年遠慮するとしていて、この差がそのまま忌と服の長さの違いを表しています。結婚式への出席と行楽の旅行は、福島県神社庁が忌の間は控えると書いていて、ここも区切りは忌明けです。おせちの食材や新年の挨拶の作法は通販サイトや葬儀社のコラムが出どころで、お酒や遊びにいたっては根拠を示した資料そのものが見当たりません。まず命日から50日を数えて忌明けの日付を確かめ、外から見えることは親族と足並みをそろえ、残りは家族が納得できる線で決めてください。
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