お歳暮の季節に身内を亡くすと、今年は贈ってよいのか迷う方は多いでしょう。調べてみると、喪中でも問題ないと書くページばかりが並びます。ところが、そう言える根拠がどこにも書かれていません。
出どころをたどると、行き着くのは百貨店やギフト通販、葬儀社のコラムだけでした。神社や寺の公式ページにも、国の資料にも、贈答の作法は一行も見当たりません。喪中の初詣には神社本庁という一次の資料があるのに、お歳暮とお中元にはそれが無いのが実際のところ。
この記事は、マナーを並べるためのものではありません。何が確かめられて、何が業者の案内にすぎないのかを分けたうえで、贈るかどうかを自分で決められる形に並べました。忌中との関係、時期がずれたときの扱い、のし紙の考え方まで順に見ていきます。
喪中のお歳暮・お中元の可否
喪中のお歳暮とお中元は、差し支えないとされています。ここでは、そう案内される理由と根拠の出どころ、お中元という行事の始まりを説明します。
お歳暮とお中元は喪中でも差し支えないとされる
お歳暮とお中元は、喪中であっても差し支えないとされています。年の暮れや夏に日頃の感謝を伝える贈り物であって、婚礼のような祝い事とは性質が違うためです。喪中に控えるとされるのは祝い事の側なので、感謝を伝える贈答はそこに当てはまらない、という説明。贈る側が喪中でも、贈る相手が喪中でも、扱いは変わらないとされます。
ただし、これは百貨店やギフト業者が案内している慣習です。宗教上の規定や公的な決まりがあるわけではありません。差し支えないという答えは広く流布しているものの、そう決めた主体はどこにも見当たらないところ。今年は取りやめようかと迷っているなら、まず禁じている決まりが存在しない点を確かめてください。
贈答の作法を示した公的な資料はない
喪中の贈答について、宗教機関や公的機関が示した資料は見当たりません。神社本庁の服忌のページにも、お歳暮やお中元の記述は一行もないところ。喪中の贈答は控えるべきだと神社本庁が述べている、という説明を見かけることがありますが、そのような記述は公開されていません。
表にすると、この領域の根拠の薄さがはっきりします。
| 論点 | 説明されている内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 喪中のお歳暮・お中元 | 祝い事ではないので差し支えない | 百貨店・ギフト通販・葬儀社のコラム |
| 忌の間は時期をずらす | 忌明けを待ってから贈る | 同じくコラム |
| のし紙と水引の形 | 紅白の蝶結びを使う | 同じくコラム(規格は紙の寸法のみ) |
| 暑中・残暑見舞い(あいさつ状) | 喪中でも送ってよいという考え方が一般的 | 日本郵便(はがきの話で贈り物ではない) |
| お中元の始まり | 道教の中元と仏教の盂蘭盆会が結びついた | 国立国会図書館 レファレンス協同データベース |
下の2行だけが一次の資料で確かめられる話です。上の3行は業者の案内で、守らなくても咎められる決まりではありません。:::
決まりだと書かれた記事に出会ったら、誰がそう決めたのかを探してみてください。
### お中元は道教と仏教の行事が結びついて広まった
お中元の始まりは、たどれるところまで分かっています。国立国会図書館のレファレンス協同データベースによれば、道教の中元と仏教の盂蘭盆会が結びつき、江戸時代に民間の贈答の習わしとして定着しました。夏の贈り物という形は、この2つの行事が重なったところから広がったもの。
お歳暮の始まりについては、同じように裏の取れる説明が見当たりません。年の暮れの贈答をめぐる由来はいくつも語られているものの、どれも定説と呼べる裏づけを持ちません。全国的な習わしとして今の形になったのは百貨店の売り出しが広がった後だ、という見方もあります。由来をたどっても喪中の可否は出てこないので、始まりの話はここまでにしておきましょう。
## 忌中の贈答
忌中は、喪中の最初の50日と重なります。ここでは、忌の間の贈答をどう考えるかを、自分が忌中の場合と相手が忌中の場合に分けて説明します。
### 忌の間の贈答を止めた資料は見当たらない
忌の間の贈答についても、止めるよう述べた資料は見当たりません。神社本庁は、故人の祭りに専念する期間を忌、故人への哀悼の気持ちを表す期間を服と呼び分け、忌の間は神社への参拝と神棚のおまつりを控えるとしています。控えるとされているのはこの2つで、贈り物は挙がっていないところ。
忌の間に控えるものとして神社庁が挙げているのは、ほかに慶事への出席と行楽の旅行です。福島県神社庁は、忌の期間中は結婚式や祝賀会、式典への出席を控え、祝い事を予定していたなら忌明け以降に延期すると書いています。贈答はここにも入っていません。忌の間だから贈ってはいけない、と言い切れる根拠は無いものと考えて差し支えないでしょう。
### 自分が忌中なら忌明けを待つという選び方もできる
自分の家が忌中にあたるなら、忌が明けてから贈るという選び方があります。神社本庁は、特に慣例がない場合として五十日祭までを忌としました。続柄や神社によって日数は変わるので、期間そのものは[喪中はいつまで・どこまで](/mochu-itsumade/)の記事で確かめてください。決まりが無い以上、待つか贈るかは贈る側が決めてよいところ。
気持ちの面で贈答どころではない時期に、無理をして例年どおり手配する必要もありません。葬儀の直後は手続きが立て込むので、時期をずらすほうが落ち着いて品を選べるでしょう。お歳暮の時期を外しても、表書きを変えれば同じ相手に同じ品を届けられます。まず命日から50日目の日付を書き出して、贈りたい時期の前か後かを確かめてみてください。
### 相手が忌中なら届く日を確かめる
贈る相手の家に不幸があったときも、贈ってはいけないという決まりはありません。喪中の方に贈っても差し支えないという説明は、贈る側が喪中の場合と同じで、百貨店やギフト業者の案内が出どころです。相手が受け取れないと定めた資料は、宗教機関にも公的機関にも見当たりませんでした。
決まりが無いぶん、判断するのは贈る側になります。葬儀の直後で家が立て込んでいそうなら、届く日を後ろにずらすという方法があるでしょう。生ものや日持ちのしない品は、受け取る側の手間になることもあります。相手の家の様子が分からないなら、時期をずらしたうえで、あいさつ状を添えて送ってみてください。
## 時期がずれた場合の贈り方
贈る時期を外しても、贈答そのものをあきらめる必要はありません。ここでは、お中元とお歳暮の時期を過ぎたときの表書きと、あいさつ状の扱いを説明します。
### お中元の時期を過ぎたら暑中見舞いの表書きにする
お中元の時期を過ぎたら、表書きを暑中見舞いや残暑見舞いに変えて贈る方法が案内されています。日本郵便は、あいさつ状としての暑中見舞いを小暑にあたる7月7日ごろから立秋の前日にあたる8月7日ごろまで、残暑見舞いを立秋から8月末までとしました。遅くとも処暑にあたる9月7日ごろまでが目安。
| 表書き | 時期の目安 |
|—|—|
| 暑中見舞い | 小暑(7月7日ごろ)から立秋の前日(8月7日ごろ)まで |
| 残暑見舞い | 立秋から8月末(遅くとも処暑・9月7日ごろ)まで |
この日付はあいさつ状の目安として案内されたもので、贈り物の表書きを定めたものではありません。贈答の表書きをこの区切りに合わせるのは、百貨店やギフト業者が案内している慣習です。それでも時期の目安としては使えるので、贈りたい品が届く日を確かめてから表書きを決めてください。
### お歳暮の時期を過ぎたら寒中見舞いの表書きにする
お歳暮の時期を過ぎた場合も、表書きを変えて贈る方法が案内されています。年が明けてからは、松の内が明けてから立春の前日までを寒中見舞いとするのが一般的とされます。松の内は関東で1月7日まで、関西では1月15日までとされることが多いものの、1月10日までとする地域もあって一枚岩ではありません。
寒中見舞いの時期にも、公式な定めはありません。立春の日付そのものも年によって動くもので、国立天文台が前の年に公告する暦で決まります。表書きを何にするかで悩むより、品に添える一言を用意するほうが相手には伝わるでしょう。年内に間に合わないと分かった時点で、松の内が明けた後に届くよう手配してみてください。
### 暑中見舞いのあいさつ状は喪中でも送ってよいとされる
はがきのあいさつ状については、日本郵便が考え方を公開しています。暑中見舞いと残暑見舞いは、喪中であっても送ってよいですし、喪中の方に送っても構わないという考え方が一般的です、というのが日本郵便の書き方。一般的ですと添えられているとおり、決まりとして示されたものではありません。
この記述はあいさつ状の話で、お中元やお歳暮の品には触れていないところ。贈答の可否をこの一文で裏づけることはできません。1年控えるとされる年賀状とは扱いが違うので、夏のあいさつ状は喪中でも出して差し支えないとされる側に入ります。品を贈るかどうかとは別に、あいさつ状だけ送るという選び方も持っておいてください。
## のし紙と水引
のし紙の掛け方に迷って、贈るのをやめてしまう方もいます。ここでは、のしと水引に規格があるのかどうかと、案内されている形を見ていきます。
### のし紙と水引に公的な規格はない
のし紙や水引の形を定めた公的な規格は、存在しません。日本産業規格でのし紙に関係するのは紙の寸法だけで、水引の色や結び方は対象になっていないところ。喪中のときにどう掛けるかを定めた決まりも、当然ながらありません。
業界の側に決めた団体があるわけでもありません。ギフト用品の業界団体はすでに解散していて、作法を示す組織そのものが存在しない状態です。正式なのし紙という言い方をよく見かけるものの、正式かどうかを判定する主体がどこにもいません。掛け紙の形で贈るかどうかを迷っているなら、そこは判断の分かれ目にならないと考えてください。
### 紅白の蝶結びは業者が案内している慣習
紅白の蝶結びの水引が正式だ、と書かれた案内をよく見かけます。何度あってもよい贈り物なので結び直せる蝶結びを使う、という説明が添えられているところ。お歳暮とお中元は毎年続ける贈答なので、この形が広く案内されています。
ただし、これは規格ではありません。案内しているのは百貨店やギフト通販で、宗教機関でも公的機関でもないためです。喪中だから紅白を避けなければならない、と定めた資料も見当たりません。水引を変えるか例年どおりにするかも、贈る側が決めてよい話です。掛け紙をどうするか気になるなら、品を買う店に喪中である事情を伝えて相談してみてください。
## 喪中の贈答の決め方
決まりが無いと分かると、では何を手がかりにするのかという問いが残ります。ここでは、贈るかどうかを決めるまでの手順を3つに分けて説明します。
### 命日から50日を数えて忌明けを確かめる
最初にやるのは、自分の家が忌中にあたるかどうかの確認です。命日を1日目として50日を数え、その日付を書き出してください。神社本庁が、特に慣例がない場合として五十日祭までを忌、一年祭までを服としているためです。世間で喪中と呼ばれているのは、この服の期間のこと。
贈答にはこの区切りが効かない、という点も押さえておきましょう。神社本庁が忌の間に控えるとしたのは神社への参拝と神棚で、贈り物ではありません。それでも忌明けの日付を持っておくと、正月の集まりや初詣の判断がまとめて付きます。正月の行事全体をどうするかは、[喪中の正月の過ごし方](/mochu-shogatsu-sugoshikata/)の記事で確かめてください。
### 決まりと慣習を分けて読む
贈答の記事に並ぶマナーは、決まりと慣習が混ざったまま書かれています。マナー違反という言葉が出てきたら、誰がそう決めたのかを探してみてください。喪中の贈答については、探しても決めた主体が出てきません。宗教機関の説明にも、公的機関の資料にも行き当たらないためです。
出どころが業者の案内だと分かれば、守るかどうかを自分で決められます。喪中の初詣なら神社本庁という一次の資料があり、忌の間は控えるという答えが出ますが、贈答にはその軸がありません。軸が無いところに、他人の答えを当てはめる必要はないもの。今年贈るかどうかは、相手との付き合いの続き方から決めてよい話です。
### 地域や家の慣例に合わせて決める
残るのは、どちらとも決めかねる場面です。神社本庁も、日数について各地域の慣例に従うのが適切だと添えています。全国一律の答えが無い部分は、地域と家の側に判断が委ねられているところ。
親族のあいだで扱いが割れると、後から気まずくなります。同じ故人を悼む親族どうしで、片方が例年どおり贈り、片方が取りやめるといった食い違いが起こるためです。11月のうちに贈る先の一覧を作って親族と突き合わせておくと、迷いが減るでしょう。喪中をどこまでの親族とするかで悩んでいるなら、[喪中はいつまで・どこまで](/mochu-itsumade/)の記事を参考にしてください。
## まとめ
喪中のお歳暮とお中元は差し支えないとされますが、そう決めた主体はどこにもいません。宗教機関にも公的機関にも贈答の作法を示した資料は無く、出どころは百貨店やギフト通販、葬儀社のコラムだけです。神社本庁が忌の間に控えるとしているのは神社への参拝と神棚のおまつりで、贈り物は挙がっていません。日本郵便が喪中でも送ってよいという考え方を紹介しているのは暑中見舞いと残暑見舞いのあいさつ状であって、贈り物の話ではないところ。のし紙と水引にも公的な規格はなく、紅白の蝶結びは業者が案内している慣習です。一次の資料で確かめられるのは、お中元が道教の中元と仏教の盂蘭盆会から広まったという由来くらい。決まりが無いのだから、贈るかどうかは相手との付き合いの続き方から決めてください。
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